「Smartbooks」 オーディオブックAI活用し最短3日で作成 スマートブックス株式会社

2025年3月5日

 オーディオブック・アプリ「Smartbooks(スマートブックス)」を手掛けるスマートブックス株式会社(代表取締役社長・相内遍理氏)は、独自に開発したAIナレーターを活用した新刊ビジネス書のオーディオブック化によるマーケット拡大に乗り出している。

 

 スマートブックスは当時大学生だった冨田直人氏が2021年に創業。同氏はApple Booksでのインターンなどを通じて、オーディオブックの大きな可能性を感じる一方で、新刊や人気の作品が十分に楽しめないという課題に挑戦すべく起業した。しばらくは技術開発が続いたが、相内遍理氏(現代表取締役社長)と土井英司氏(現取締役エバァンジェリスト)のパートナーと出会ったことで事業として成長し、現在はAIサポートやプロダクト面を主に担当している。

 

左から、土井英司氏、相内遍理氏、冨田直人氏

 

書籍とのサイマル配信も可能に

 

 当時オンライン書店「Fujisan.co.jp」を運営する株式会社富士山マガジンサービスで役員をしていた相内遍理氏は、人間によるナレーションに大きな時間とコストがかかる従来のオーディオブックでは、すべての作品を音声化することができないと見ていたが、Smartbooksでは製作期間が最短3日、コストは10万円以下に抑えられ、AIを使えば新刊の発売に合わせたサイマル配信も夢ではないと感じ「20年以上携わってきた出版社との関係を生かし、新たな市場開拓の力になろう」と参画。

 

 またAmazonでバイヤーを務めた経歴を持つ取締役の土井英司氏は、書籍として改訂版にも対応し得る「スケーラブル(拡張可能)」であることが重要だとし、文字を直せば音声も同時に変わる利便性に加え、表示される図表に任意で音声を被せることができる革新的なSmartbooksの仕組みを高く評価。「紙ではできないことがSmartbooksでは可能であり、コンテンツの大きな未来を感じる」と話す。

 

短納期でビジネス書のニーズ捉える

 

 スマートブックス社のオーディオブック・アプリ「Smartbooks」は2025年1月末からiPhoneおよびAndroidの両方で本格的な展開を開始し、2月末の時点で先行配信48タイトルを含む、全156タイトルをそろえる。ひと月の配信数は約30タイトル、ビジネス書を中心に18社を数える契約出版社はこれからさらに増えていく。

 

 このような順調な出だしには、明らかにビジネスへの大きな利点がうかがえる。従来であれば、オーディオブックの発売は紙書籍の発売から2〜3カ月を待たねばならなかったものが、最短3日と制作期間が飛躍的に縮まり、書籍の告知プロモーションをするタイミングに合わせて音声版も用意でき、発売日から同時にサービスを提供することが可能となる。

 

 このことについて土井氏は「新刊で誰よりも先に読みたいというのが、ビジネスパーソン本来のニーズだとすれば、やはり今までのオーディオブックでは遅すぎました」とユーザー視点からのメリットを指摘。さらに海外在住の人が日本で出版されるビジネス書の新刊を日本国内とほぼ同価格で購入でき「世界中にタイムリーにコンテンツを届けられるグローバルな展開が視野に入ってくれば、出版業界の現状の売上にプラスオンの貢献ができるのではないか」と期待を示す。

 

書籍の構造解析し音声化する「繋ぎ込み」

 

 そのようなソリューションを実現させる同社独自のAI技術について、創業者の冨田氏は二つのポイントを挙げる。その一つがアプリSmartbooksのユーザーインターフェースであり、音声を聞きながら、文字が流れ、適切なタイミングで図表を表示してくれるサービスだ。「情報が同時的にどんどん流れてくるのは、現代人に合ったユーザー体験なのではないか」と語る。

 

 二つ目はAIによる専用の音声合成システムだ。文字を音声にする「読み上げ」であれば既存のサービスもあるが、それらは長い文章を淡々と同じペースで、タイトルや見出しも判断せずにそのまま一文として読み上げてしまう。しかし同社の技術は書籍の構造を分析しながら効率的に音声に繋げるための「繋ぎ込み」に特に力を入れており、例えば「読み方、間をうまく取る、読み間違いを減らす、適切な箇所で効果音を鳴らすなど、本の構造データをしっかり読み取って、聞きやすいようにしています」という。

 

東洋経済『業界地図』をオーディオブック化

 

 このような同社のAI技術によって開かれるオーディオブックの新しい可能性を象徴するのが、今春に配信を予定している『業界地図』(東洋経済新報社)だ。ビジネスパーソンにとって有益で鮮度の高い同書のデータの持ち歩きを可能にするオーディオブック化は業界初となり、「細かくて膨大なデータを隅から隅まで読むのは難しいですが、音声なら意識を広げて効率よく聞くことができ、新たな業界の発見にもつながるのではないか」と相内氏はいう。

 

 『業界地図』のようにカラーの図版が多い書籍がオーディオブック化されることは、それ自体に物理的なバリューもあり、図表に合わせた読み上げが可能などSmartbooksの特徴が生かされる。その利用シーンについて土井氏は「例えば電車の車内や、街の雑踏の中など、その人の置かれた状況や移動に伴う変化によって、読む・聞く方法を選ぶことができます。そういう現代的で自由自在な視聴体験を提供したい」と語る。

 

スマートブックスのアプリでは、文章や図版を見ながら音声を聞くことができる

 

新たな見せ方で書籍のポテンシャル解放

 

 一方でまた、ビジネスパーソンに限らないオーディオブックならではの幅広いユーザー層への親和性について相内氏は「僕は本を速く読める方ではないのですが、Smartbooksの倍速機能はとてもスムーズに聞くことができます。慣れてくれば画面で文字を読みながら4倍速で聞いていても頭に入ってきます」と評価する。倍速を使えば従来1冊のオーディオブックを読むために4〜5時間かかっていたものが、わずか1時間で聞けてしまう。

 

 またTikTokをはじめとしたショート動画が好まれ、放っておいても情報が流れてくるようなコンテンツに慣れている若い世代に対し、書籍もまた、見せ方を変えていく必要があると指摘する冨田氏は「書籍のコンテンツ自体は変わらず素晴らしいので、あとは見せ方を変えていくことで、もっとポテンシャルを解放できるのではないか」と語り、まさにそれが同社のミッションだと自負する。

 

 現在ビジネス書をメインに扱うSmartbooksだが、今後は実用書、フィクション作品へと展開を広げ、ゆくゆくは2000億円とも言われるアメリカのオーディオブックマーケットで、日本のコンテンツが売れるようなプラットフォームを目指す。これまで自動翻訳では、主語のない日本語の訳は技術的に難しかったが、文意を汲んで推測するAIの能力が向上していることが追い風となる。

 

 「日本のコンテンツで海外に売っていけるものはたくさんあります」と相内氏が言うように、世界中からの日本文化への興味の高まりはSmartbooksのオーディオブックによって紙の制約から解放され、今後さらに加速していく。

 


 

ビジネス書ならではの拡張性に期待

ディスカヴァー・トゥエンティワン代表取締役社長 谷口奈緒美氏

 

 

 当社はオーディオブック化に比較的早くから着手しており、現在所有しているタイトルのうち、およそ半分をすでにオーディオブック化しています。販路としては既存の配信サービスを中心に、さまざまなストアに出品しており、売れ行きも堅調に伸びています。近年は公共図書館もオーディオブックに力を入れていて、需要の高まりを感じています。

 

 もともと当社はビジネス書を多く刊行しているので、そのコンテンツを利用者に合わせてより多様な学習形態で提供できるよう努めてきました。オーディオブックはその一つとして欠かせない形態であり、今後も取り組みを拡大させていく方針です。

 

 ユーザー視点からオーディオブックが担う役割を考えると「隙間時間の活用」が挙げられると思います。オーディオブックユーザーへのアンケートでは、通勤時間に利用している方が多く、2倍速で聞くことが日常的になっている状況もうかがえます。通勤や通学の時間を活用できる、あるいは何か別の作業をしながら聴くことができるというのはオーディオブックの大きなメリットではないでしょうか。

 

 その意味でも、Smartbooksのサービスは、常に新しい知識を学び続けるビジネスパーソンと相性が抜群です。特にビジネス書は、知識を効率的に学びたいビジネスパーソンが隙間時間を有効に活用できる非常に適したコンテンツといえるでしょう。

 

 当社は開発の初期段階からSmartbooksに注目していました。当時、同分野に取り組む企業はほとんどありませんでしたが、ビジネス書においては、ナレーターの個性よりもユーザビリティがより重要なのではないかという視点から、いち早くAIによる音声化に取り組まれていたことに非常に感銘を受け、お話を聞いてすぐに協力を決めました。

 

 最大のメリットはAIを活用することで制作スピードを飛躍的に向上できる点です。従来のナレーターによるオーディオブック制作は、どうしても時間とコストがかかり、新刊発売直後にリリースすることが難しいという課題がありました。AIではその問題が一気に解決されます。情報の鮮度が求められるビジネス書においてそのメリットは非常に大きいと言えます。さらに翻訳のハードルが下がることで、将来的には海外市場への進出も視野に入れられる点も魅力的です。

 

 音声の品質についても、デジタルディバイスの「読み上げ機能」とは一線を画しており、ビジネス書を聴く際に倍速再生でも聞き取りやすい点など、よく研究され、工夫が凝らされていると感じます。

 

 オーディオブック市場の今後を考えると、既に大きな市場を持つアメリカをはじめとした海外の動向が日本にも影響を与えることが予想されますが、日本独自の発展を遂げる可能性も十分にあると感じています。

 

 新刊をすぐにオーディオブックで楽しめるというのは、素晴らしいベネフィットです。これからもSmartbooksの取り組みに大いに期待しています。ぜひ一緒に、オーディオブックならびにコンテンツとの新しい出会いを広げていけたらうれしいです。

 


 

※アプリをダウンロードすると、この記事のSmartbooks版を聞くことができます。「文化通信掲載記事」「文化通信」「記事」「スマートブックス」などで検索すると閲覧できます。