物流の強み生かし出版流通DXプラットフォーム提供
セルン株式会社(SeLn inc.)は、物流・印刷のパートナー企業と連携し、書店のEC(ネット通販)や客注・取り寄せ流通などをサポートする「出版流通DXプラットフォーム」を提供する。全国に展開する大手書店に対して昨年12月から客注品や外商向けの取り寄せ流通の受託を始め、今年3月からスタートするネットストアの物流などバックヤード業務も開始した。
セルンは、出版物流会社の株式会社ニューブックの2代目で、物流アウトソースのITスタートアップである株式会社オープンロジ共同創業者である豊川竜也氏が2018年に起業した。「日本の出版流通を自由化する」をミッションに、製造と物流の強みを生かしたサプライチェーン「出版流通DXプラットフォーム」を提供する。
これまで出版社に向けて、小ロット製造のPOD(プリント・オンデマンド)からオフセット印刷までの製造、そして通販の物流サービス、出版物のデジタル化などのソリューションを提供してきたが、こうしたノウハウを生かした書店向けソリューションを強化している。
EC・POD・物流を組み合わせて提供
同社が提供するソリューションは5つ。ネット書店を開設できるECプラットフォーム「BOOKSTORES.jp」、1冊から印刷製本できるPODサービス「BOOKSMAKER.jp」、高品質・低価格の物流「BOOKSLOGI.jp」、ネガ/ポジフィルム、底本スキャンによるAI高解像度デジタルデータ化サービス「Akashic Records」、そして今年5月には出版物を仕入れて販売できるB2B卸売マーケットプレイス「BOOKSBANK.jp」をリリースする。これらのソリューションを組み合わせて提供できるのが強みだ。
「BOOKSTORES.jp」は、ネットショップのプラットフォーム「Shopify(ショッピファイ)」を活用してオンラインショップを構築する。サイト立ち上げの初期費用はカスタマイズがなければ無料で、ランニングコストはShopifyのベーシック月額利用料4980円。商品を販売した際の手数料は決済手数料込みで販売価格の10%(月間売上100万円以上なら8%)と低水準に抑えている。
物流サービスの「BOOKSLOGI.jp」はオープンロジで培ったノウハウを生かし、複数の物流会社と連携することで全国一律238円/個口~と安価な送料を実現。「BOOKSMAKER.jp」は複数印刷会社とのアライアンスで、1冊~100冊までは「Book of One」、100冊~1000冊までは「デジタルショートラン」、1000冊以上は「オフセット印刷」と、あらゆるニーズに対応する体制を構築している。
店頭在庫と取り寄せ品の荷合わせにも対応
これらのソリューションを組み合わせ、これまでに講談社の「講談社学芸アーカイブ」、PHP研究所の公式通販など出版社のオンラインストアを開設してきた。また、今井書店(島根県)のグループ会社である今井出版による「今井出版オンラインストア」もオープン。今井出版が運営する「小さな今井大賞」の過去受賞作はセルンが版面データを預かり、受注から48時間以内に「Book of One」で製作、発送している。

今井出版の「今井出版オンラインストア」
3月からサービスを開始する大手書店のネットストアは、店頭在庫と取り寄せ商品を扱い、利用者は店舗での受け取りと宅配を選択することができる。
セルンではECの構築サポート、商品の入庫、保管、流通加工、梱包発送など、B2B、B2Cを含めたバックヤード全般を担っており、ネットストアでの注文から最短翌々日の配達を実現している。
また、 半世紀以上にわたる出版物流の経験とECフルフィルメントサービスで培ってきたノウハウ、システムを活用し、出版物に限らず、文具、雑貨、IPグッズ、PODなど書店で取り扱う全ての商品に対応が可能としている。
中小書店もEC行うメリットある
書店のECをサポートすることについて豊川社長は「消費者のECシフトがますます進むなか、中小書店も店売だけではなくECに取り組む必要性が高まっています。すでに大手ネット通販サイトに出店している書店もありますが、利益率は低く、中小書店であっても自社でネットショップを開設するメリットは大きい」と指摘する。
もちろん、中堅、小規模書店がそれぞれ自前でECサービスを立ち上げることは難しい。「当社のプラットフォームは低コストでECサイトを開設できて、宅配物流、代金収納などバックヤードもセットで提供します。各地で地域の商圏が縮小する中、目利きや仕入れの力、発信力があれば中小規模の書店でもECによって全国に顧客を広げることができます」と可能性を説明する。
さらに、今後予定しているB2B卸売マーケットプレイス「BOOKSBANK.jp」は、現在、取次との在庫連携の準備を進めており、市場流通している大半の出版物を仕入れることができる。このため、取次との取引がなくても出版物のネット通販を可能にする。
出版業界への恩返しも
豊川社長は、国際的にみて日本の出版市場だけが著しく縮小しているとし、「日本ではこれまで出版流通を支えてきた雑誌、コミックがwebや電子書籍にシフトして厳しくなっていますが、アメリカで電子書籍の市場が頭打ちとなり、紙の書籍市場が伸び、書店も増えているのをみると、まだ書籍販売を伸ばすことはできると考えています。書店がもつ販売力を生かすツールとして、EC、POD、そして物流を提供していきます」という考えだ。
そして、一度はITスタートアップを起業した豊川社長が、再び出版業界向けビジネスに取り組む理由については、「私は1965年に創業した出版流通倉庫の2代目として生まれ育ちました。今の出版業界の厳しい状況を見て、恩返ししたいという気持ちが大きいのです」と話している。
業界の既存資源生かすECインフラ必要では?
合同会社未来読書研究所 田口幹人氏
経済産業省が、関係者との車座対話やヒアリングをもとに「関係者から指摘された書店活性化のための課題(案)」を発表した。キャッシュレス決済の入金サイクルによる資金繰りの悪化に関する課題が増えたが、物流費の上昇や人件費など店舗運営に係る費用の上昇、2024年問題など、小売り全般に共通の課題以外は、これまで約20年もの間指摘されてきた課題が列挙されており、この間自ら変わることのできなかった業界であることを再確認することになってしまった。
それぞれの課題に対して思うことはあるが、字数の関係もあるので、今回は「17. ネット書店との競合」について触れていきたい。
報告書には、「ネット書店では、再販売価格維持制度があるにも関わらず、過度なポイント還元や配送料無料などで実質的に値引きが行われている、競争条件が平等ではない」とし、この点で、フランスの制度(いわゆる反アマゾン法)を参考にすべきという指摘があることが明記されている。
ポイント還元は、リアル書店でも実施されている場合もあり、どこで線を引くのかが難しく、物流費が高騰する中での配送料無料は、ある意味においては生活者の消費行動の変化に対応した企業努力の賜物とも言える。20年前なら可能性はあったと思うが、今ここを規制し、生活者の利便性を下げる施策を導入することは、生活者の本離れにつながってしまうのではないか心配である。
ライバルを規制する前に、まずはこれまで書店業界のeコマース戦略はどうだったのかを検証するべきである。その課題を踏まえた上で、こんなことができたらいいのに!という僕の夢を書いてみた。
■帳合も関係なくすべての取次の倉庫在庫を活用することができるECインフラってできないの?
■与信の壁に阻まれることがなく、たとえ小規模な書店であっても各取次の在庫商品を取り扱うECインフラってできないの?
■生まれ育った地域の書店や好きだけど遠くてなかなか足を運ぶことができない書店を応援するふるさとEC書店のようなインフラってできないの?
そんなECインフラができたらいいのに、といつも考えている。
出版業界特有の商環境を変える方向に進まないのであれば、せめて競争相手を規制するのではなく、既存の資源を有効活用し、許容可能な範囲で、取引ニーズに対応できる体制を整備してはどうだろうか。そこに出版社と連携した品切・重版未定商品のPODサービスまでを搭載することができれば、既存のEC書店とは違う、出版業界全体で使えるECインフラになるんじゃないのだろうか。
おそらく業界の構造改革は進むことはないかもしれないが、既存の資源を有効に活用することでできることはあるのではないだろうか。
セルン株式会社(SeLn Inc.)
設 立:2018年11月9日
資本金:1000万円
本 社:〒150-0001東京都渋谷区神宮前6-35-3 コープオリンピア731
電 話:03-6450-6637
工 場:〒359-0013埼玉県入間郡三芳町藤久保538-1 ㈱ニューブック内
電 話:04-2933-7788
【問い合わせ先】メール:biz@seln.com
【書店ソリューション特集 インタビュー】
▼武藤容治経済産業大臣に聞く
書店振興プロジェクトチーム発足から1年、今春めどに「書店活性化プラン」
▼書店振興PT長・南亮氏に聞く
▼三洋堂ホールディングス・加藤和裕社長に聞く
〈書店振興レポート〉
▼業界の現状と直面する課題 時勢と指標で読み解く、書店減少と出版市場