
発足当初からPT長を務める商務・サービス審議官の南亮氏
経済産業省に大臣直轄の組織として「書店振興プロジェクトチーム(PT)」が設置されてから1年。書店経営者との車座対話やヒアリング調査、パブリックコメントを経て、官民連携の「書店活性化プラン」が始動しようとしている。発足当初からPT長を務める商務・サービス審議官の南亮氏に書店DX化やRFID(ICタグ)の導入など、政府が検討する支援策について話を聞いた。
【鷲尾昴、星野渉】
――発足から1年、プロジェクトチームの体制に変化はありましたか。
体制に大きな変化はなく、商務・サービスグループとその中にある文化創造産業課が中心となり、中小企業の支援を担当する中小企業庁の関係部局と協力して進めています。
齋藤前大臣からプロジェクトを託された武藤大臣も書店振興に強い熱意を向けており、私たちも大臣の指示を仰ぎながら進めています。
――座談会やヒアリングなどでは、多岐にわたるさまざまな提起がありましたが、重要視している課題は何ですか。
パブリックコメントを踏まえて「関係者から指摘された 書店活性化のための課題」を発表しました。「読書離れ対策」「書店の粗利改善」「書店と図書館の関係」「本に関する専門家の活用、その他の支援」が重要課題だと認識しています。
課題については事業者が対応すべき内容や慣行などもあり、多岐にわたっていることから、関係省庁や民間事業者と連携し、対策を検討していきたいです。
官民連携の動きが加速 「書店活性化プラン」
――他省庁との連携も注目されていますが、組織を横断する取り組みは順調に進んでいますか。
他省庁との連携は非常にうまくいっています。具体的には文部科学省や文化庁、さらには公正取引委員会などと協力して進めています。このほど、関係省庁連絡会議を発足し、「書店活性化プラン」の策定に向けて動いているところです。
――策定している「書店活性化プラン」について教えてください。
現時点で詳細な内容を申し上げるのは時期尚早であるため、回答を控えさせてもらいますが、「書店活性化プラン」は書店活性化の施策を各省庁が持ち寄り、政府としての対応を取りまとめたものとなります。公開は春頃をめどにしており、4~6月には発表ができると考えています。
RFIDの導入、まずは効果検証から
――書店のデジタル化で特にRFID(ICタグ)が注目されています。書店経営者からはインフラ化を求める声もありますが、これらの動きをどのように見ていますか。
現在、書籍の返品率が約33%、雑誌の返品率が約43%と聞いています。各書店の配本が非効率になっている部分もあるのではないでしょうか。RFIDはこうした課題の解決策になると期待しています。
RFIDの活用によって非効率な配本が適正化され、出版業界の大きなコストとなっている返品が改善されれば、サプライチェーン全体の利益配分の見直しにまでつながっていくのではないかと考えています。
その一方でRFIDを普及させるには、出版社における本への装着コストや書店における設備投資などが不可欠であるため、インフラ化の課題は多くあります。
まずはRFID導入の効果検証が必要です。経産省としては検証を支援する施策も検討しています。
――「書店活性化プラン」にRFIDの検証は含まれますか。
関係省庁連絡会議で練っている「書店活性化プラン」の中には、もちろん経産省としての施策も入ります。経産省には二つの役割があって、一つは全体を取りまとめ役、もう一つは我々自身が個別の施策を講じていくというものです。
例えば「書店DX化」「RFIDの検証」などの支援ですが、そうした経産省の施策をより具体化したものに仕上げます。
読売新聞社と講談社が共同提言を出すなど、プロジェクトチームの1年間に及ぶ活動が、書店振興の機運を高めていると実感しました。このまま、機運の盛り上がりをしっかりと維持し、今後も書店振興に注力していきます。
――読売新聞の世論調査によると、書店を国や自治体が支援することに賛成という意見が過半数でした。また、海外で行われているような書店支援を日本でも望む声があります。
海外の事例については、我々もずいぶんと勉強しました。関係者からもお話を聞かせてもらっています。特にフランスや韓国は文化保護という目的で、さまざまな施策を展開している印象を抱きました。我が国としても文化保護の観点から書店の支援を重視する姿勢は学ぶべき点が多くあり、しっかり参考にしたいと思っています。
しかし、出版産業の構造、政府による支援の仕組みは、国ごとに異なっているため、諸外国の施策をそのまま取り入れるといったシンプルな話ではないと考えます。
――発足1年を迎えて、南氏が感じた思いを教えてください。
書店経営の課題を幅広く前広に整理し、ついに「書店活性化プラン」を通じて、官民連携で進めていくフェーズに入りました。
私が何よりも大事だと思っているのは、政府をはじめ、読者や出版社、取次といった関係者が書店の重要性をシェアし、現状を正しく認識した上で、書店活性化に向けて、一緒になって努力していくことです。書店振興の波をさらに大きなものとするべく、手を取り合っていきたいと強く願っています。

南亮(みなみ・りょう)氏
1990年東京大学法学部卒業、通商産業省入省、96年テキサス大学ロースクール、98年中小企業庁 振興課長補佐、2000年貿易局 輸出課長補佐、02年独立行政法人日本貿易保険総務部総務グループ長、05年中小企業庁参事官補佐、07年独立行政法人日本貿易保険ニューヨーク事務所長、10年資源エネルギー庁国際課長、12年資源エネルギー庁 石油・天然ガス課長、15年通商政策局 欧州課長、18年資源エネルギー庁 資源・燃料部長、21年首席国際カーボンニュートラル政策統括調整官、23年総括審議官、24年より現職
【書店ソリューション特集 インタビュー】
▼武藤容治経済産業大臣に聞く
書店振興プロジェクトチーム発足から1年、今春めどに「書店活性化プラン」
▼三洋堂ホールディングス・加藤和裕社長に聞く
〈書店振興レポート〉
▼業界の現状と直面する課題 時勢と指標で読み解く、書店減少と出版市場
書店ソリューション特集 事例紹介
▼株式会社PubteX
書籍トレーサビリティシステム「BOOKTRAIL」スタート 書店のオペレーションと収益改善目指す
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▼株式会社光和コンピューター
ポイントアプリ、AI仕入れシステムの外販開始へ 書店に総合的なDXソリューションを提供
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▼セルン株式会社
書店向けEC×物流ソリューションを本格化 中小書店も自前のオンライン販売可能に
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▼日本出版販売株式会社
書店省人化ソリューション「ほんたす」 完全無人・ハイブリッド営業をパッケージで提供
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