【書店振興レポート】~業界の現状と直面する課題~ 時勢と指標で読み解く、書店減少と出版市場

2025年3月18日

 

 書店の閉店が相次ぎ、無書店の地域の増加は大きなニュースとなっている。経済産業省の書店振興プロジェクトチームは1月28日、「関係者から指摘された書店活性化のための課題」を公開し、「書店活性化プラン」の策定に向けた課題整理が進む。そんな中、2月7日に講談社と読売新聞グループ本社が「書店の活性化へ向けた提言」を共同で発表し、それぞれの持つ媒体で識者や作家へのインタビュー記事を展開するなど、書店活性化につながる取り組みが広がっている。レポートでは書店数と出版市場の推移、年表には主な出来事やネット利用率などを記載し、書店応援の機運が高まりをみせる今、業界の現状と直面している課題をまとめた。 

 

【鷲尾昴】


減り続ける日本の書店

 

 日本の書店数は減少が続いている。日本出版インフラセンター(JPO)によると2000年代初期は2万軒を越えていた総店舗数が、25年2月には1万471軒まで半減、売り場を持つ実店舗数に近い「坪あり店舗(売り場面積を報告している書店)」は7712軒まで落ち込んだ。


 また、出版文化産業振興財団(JPIC)の調査によると、書店がない市町村は全体の約27・7%を占め、書店がないか、1軒しかない市町村は約47・4%に及んでいる(24年3月時点)。

 

一般社団法人日本出版インフラセンター調べ

 

縮小する紙の出版市場規模

 

 出版科学研究所が発表した24年(1~12月)の出版市場規模は1兆5716億円(紙と電子を合わせた推定販売金額)で前年比1・5%減となった。


 紙の出版物(書籍・雑誌)は同5・2%減の1兆56億円。内訳は書籍が同4・2%減の5937億円、雑誌が同6・8%減の4119億円。書店の閉店が続き、書籍・雑誌ともに厳しい数字となったが、店頭売り上げは書籍が前年を上回るなど、既存店では回復傾向がみられるという。

 

 好調な電子出版は調査開始の14年から前年比プラスで成長を続け、19年に電子を含めた出版市場は増加に転じていた。しかし、22年になると紙の出版物(書籍・雑誌)の落ち込みを支えきれず、出版市場全体は縮小傾向にある。

 

 1996年の約2兆6564億円を記録したピーク時と比較すると約4割減、電子の増加分を除いた紙の出版物(書籍・雑誌)だけでみると約6割減と過酷な状況が続く。

 

推定販売金額、平均価格、返品率、部数は出版科学研究所のデータ(出版指標)に基づく

 

「雑高書低」の終焉、再販制度と価格転嫁

 

 日本の出版流通システムは雑誌に依存しており、雑誌の売上低迷が与える影響は大きい。2016年には書籍と雑誌の売上が逆転し、約40年続いた「雑高書低」の時代が終わりを迎えた。


 日本の出版流通は、共同配送で安価な運賃を実現していた。出版取次は「少部数発行による長期販売が適した書籍」と「定期的で大量発行が必要な雑誌」を組み込み、「取次帳合の垣根を越えて、同一エリアの書店とCVSを配送」することにより、日本全国規模で合理的な配送網を作り上げた。

 

 海外では書籍と雑誌の流通経路・販売先は別になっていることが多く、国内の他産業でも、ここまで範囲の広い共同配送網は存在しない。

 

 雑誌の低迷や環境の変化、2024年問題に伴う物流費の高騰などを受けて、日本出版取次協会は24年7月に説明会を開催。出版社などに対して「取次からみて、雑誌よりも、運賃以外の経費負担が大きい書籍は採算が厳しい状態」「雑誌業量が減り、配送効率が低下することで、運賃単価が上昇すると、もともと採算に課題を抱える書籍は、状況がより悪化する」と説明し、出版配送の課題は書籍・雑誌区別なく影響があると訴えた。

 

 送品コストについて、11年度の運賃単価を100とした場合、23年度の運賃単価は約2倍の221・9にまで上昇。その一方で、出版物の平均定価推移は書籍が約14%増、雑誌は29%増にとどまり、価格転嫁は進んでいない。

 

 


 取協各社のアンケートによると、将来的な潜在リスクとして「標準的な運賃」までコストが上昇した場合、出版輸送全体で300億円近い負担増となる可能性が示唆された。


 再販制度のある出版物は、取次や書店が上昇するコストを価格転嫁できないとした上で、出版社に対して「サプライチェーン全体での適切な価格転嫁」に協力を求めている。

 


 

【年表】出版・ネット・メディア
(1995年~2025年)

スマホ保有率、PC 保有率、ネット利用率は総務省「情報通信白書」のデータに基づく

 

書店振興PTの課題整理


 経産省は書店振興PTの発足後、車座対話やヒアリングなどで指摘されたトピックを抽出し、パブリックコメントを経て「書店特有の課題」29項目、「小売全般に共通の課題」5項目を列挙した。

 

▼書店特有の課題

 

 ①来店客数の減少

 ②粗利率を抑制する流通慣行(粗利率と小売価格)

 ③再販売価格維持制度によりコスト転嫁が困難

 ④多過ぎる出版物の刊行点数

 ⑤委託制度による返品率の高さ・適正配本の必要性

 ⑥書店規模を優先した配本

 ⑦書店における注文書籍の到着の遅れ

 ⑧雑誌に依存した流通形態

 ⑨発売日協定による配送指定

 ⑩公共図書館の複本購入による売り上げへの影響

 ⑪公共図書館での新刊貸出による影響

 ⑫地域書店による公共図書館への納入

 ⑬図書館の納入における装備費用の負担

 ⑭新規出店の難しさ

 ⑮キャッシュレス決済の手数料負担

 ⑯キャッシュレス決済の入金サイクルによる資金繰りの悪化

 ⑰ネット書店との競合

 ⑱地方自治体(公共機関、学校等)による調達方法の変化

 ⑲文化拠点としての書店の重要性の理解の希薄化

 ⑳書店による新事業開拓の不足

 ㉑多様な特色ある書店への展開不足

 ㉒活性化のための書店主催イベントの支援拡充および手続き緩和

 ㉓国や地方の補助や助成の活用の低さ、手続き負担

 ㉔新商材等の導入にあたっての支援

 ㉕DX化、データ管理の遅れ

 ㉖店頭の在庫情報が未把握

 ㉗万引き問題

 ㉘付録付き雑誌などの店頭オペレーションの負担

 ㉙文化施設、読書推進人材の活用機会が希薄

 

▼小売全般に共通の課題

 

 ①物流費の上昇

 ②人件費など店舗運営に係る費用の上昇

 ③物流の2024年問題

 ④人手不足

 ⑤後継者不足

 

【諸外国の施策】

 

 「書店活性化のための課題」の中では、「日本は欧米諸国や韓国に比べると、中央政府による文化向けの支出額が最も少なく、予算に占める割合や国民1人あたりの支出額も低位であり、地方政府における支出もドイツやフランス、韓国に大きく差をつけられている現状がある」という指摘に触れて、フランスと韓国の例を次のように挙げている。

 

〈フランス〉

 

 フランスでは「公共図書館及び公読書に関する法律」が整備され、このうち、「公読書」は市民に読書の機会を保障することを国や自治体の責務として位置付けるフランス行政独自の概念となっている。同制度により、乳幼児期、若者、すべての人向けに、読書を奨励する施策が講じられている。

 

 21年にはコロナ禍において青少年を対象とした「文化パス」を配布。2年間の有効期限で、300ユーロ(当時のレートで約4万円)が18歳の青少年に支給された。22年から年少者にも拡大され、15歳時に20ユーロ(約3000円)、16歳時と17歳時に30ユーロ(約4000円)を支給。大多数が書籍購入に使われ、1450万冊の書籍が購入された。

 

 文化関係者と消費者の出会いを促進するための施策のため、店舗に取りに行くことを原則としており、デジタル商品への利用には上限が設けられ、商品の配送はできないため、書店での購買促進に寄与した、とされている。

 

 また、1981年に制定された「本の単一価格に関する法律(いわゆるラング法)」 により、再販制度が整備され、値引きについては一定期間5%までに制限されているが、2014年の改正で、値引きと同時にオンライン書店の送料無料を禁止する内容が盛り込まれた(通称「反アマゾン法」)。

 

〈韓国〉

 

 韓国では、02年に「出版文化産業振興法」が制定されているほか、地方公共団体による「地域書店活性化条例」も制定。そのうえで、韓国出版文化産業振興院によって①基礎調査、②書店で推進する文化行事等の支援、コンサルティング、本のキュレーション等が行われている。そのほか、地方自治体による20代市民を対象とした図書費支援といった事業が展開している。

 

 


【書店ソリューション特集 インタビュー】

 

▼武藤容治経済産業大臣に聞く
 書店振興プロジェクトチーム発足から1年、今春めどに「書店活性化プラン」

 

▼書店振興PT長・南亮氏に聞く

 連絡会議が発足、関係省庁が施策を持ち寄る 

 

三洋堂ホールディングス・加藤和裕社長に聞く

 スマート無人営業を全店導入へ 超人手不足時代の生き残り策

 

書店ソリューション特集 事例紹介

 

▼株式会社PubteX 

 書籍トレーサビリティシステム「BOOKTRAIL」スタート 書店のオペレーションと収益改善目指す

 

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株式会社光和コンピューター

 ポイントアプリ、AI仕入れシステムの外販開始へ 書店に総合的なDXソリューションを提供 

 

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▼セルン株式会社

 書店向けEC×物流ソリューションを本格化 中小書店も自前のオンライン販売可能に

 

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▼日本出版販売株式会社

 書店省人化ソリューション「ほんたす」 完全無人・ハイブリッド営業をパッケージで提供 

 

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株式会社文献社

 

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株式会社METRO PLUS

 

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株式会社文化通信社