【連載】「出版社SCOPE ~得意技を拝見~」⑬ ベレ出版 書店とのつながりが売上に貢献

2025年4月7日

 事業や出版物の路線変更、ヒット作創出のための工夫など、出版社の得意技について聞く連載。今回は学習系出版社として広く知られるベレ出版の代表取締役社長の内田真介さんに話を聞いた。【水本晶子】

 

自然光が差し込む開放的な打ち合わせスペース

 

書店に足しげく通い、認知度を高める

 

 「ふつうの大人の学びなおし」を出版方針に掲げ、英語の語学書出版からスタートしたベレ出版。創業当時、数ある語学系の出版社のなかでも、同社は語学系では売れ筋とされていたやさしい入門書ではなく、〝ややしっかりとした内容の入門書〟という位置付けの書籍を出版し、それは現在も同社の出版物に引き継がれている。


 「語学系の出版社として認知されるまでには、書店との信頼関係が不可欠だった」と話すのは、代表取締役社長の内田真介さん。創業当初から営業スタッフは書店に足しげく通い、書店員に「ベレ出版の本ならこういう売り方をすれば売れる」と理解してもらうことを大切にしていたという。内田さんは「仕入れてもらうことだけを考えて訪問するのではなく、売るところまで意識してもらえるような信頼関係を築き、最終的に弊社の味方になってもらうことが大切。そうした信頼関係を結べた書店では、明らかに売上が増加した」と話す。 


 「ネット通販が一般的になり、あらゆるプロモーションツールが出てきた昨今でも、書店が最重要の宣伝媒体と考えている」という同社では、書店への情報発信を大切にしている。情報発信のひとつとして特筆すべきは、創業当初から月1回欠かさず発行し、書店に配布している『ベレベレ通信』だ。「棚の作り方など、主に書店員にとって役立つ情報を発信している。弊社の本のほかに他社の本の情報も交えながら、休憩時間に読んで楽しんでもらえる内容を目指している」と内田さん。発行から約20年は手書きで書かれていたという誌面は今でも手描きのイラストが掲載され、読んでいる人がホッとするようなつくりだ。初めて足を運ぶ書店でも話の種になることもある。


 さらに同社では新人の編集スタッフにも書店の現場を知ってほしいと、書店研修を行っている。書店に同社の本がどう置かれているか、どんな本が置きやすい本なのかを理解して、制作に生かしてほしいという。

 

既刊のほか、さまざまなアイテムが並ぶ書棚。「いつの間にかいろいろな物が置かれるようになった」と苦笑する内田さん

 

自然科学書に注力、売上増加に好影響

 

入口では、ベレ出版のキャラクター「なみへいさん」が出迎える。なみへいさんは、社員の飼い犬がモデル。以前は名物社員犬として社内に常駐していた

 

 「創業から約10年は、ベレ出版といえば語学専門出版社という認識を持たれていた」という同社だが、現在は売上の約5割強が語学書、4割が自然科学書、残りが人文社会と、自然科学書の割合が2015年以降増えている。その背景には図書館からの発注の増加がある。「10年に編集部の体制を変え、自然科学書ジャンルに力を入れたところ、図書館からの発注が増加し、初版部数に良い影響があった。書店でも新刊台や話題書の棚に置いてもらえて、これまでの語学書にはない売り方ができるようになった」と内田さん。


 同社の企画会議はバックオフィス業務を行う社員以外の全員で行う。企画は類書にはない魅力を備えていることが条件で、読者に有益な情報であればページが増えても削らずに載せ、その分は価格に反映させるというポリシーのもと作られる。


 語学書に関しては、著者による持ち込み企画であることも多く、内田さんは「著者がSNSのフォロワーを多く持っていることが売上に直結することはもちろんある」とした上で、「弊社ではどちらかというと、そういった方ではない著者を起用して出版することに出版社としての意義があると思っている」と語る。


 昨年11月に発行されたブレイク・ターンブル氏の『ネイティブが日常会話でよく使う順 英語〈チャンク〉大全』は、氏にとって共著以外で初めての著書となったが、現在5刷と売れ行き好調だ。内田さんは「今後も出版方針は変えずに読者の潜在的ニーズを満たす本を作りながら、さらに書店への情報提供を充実させたい」と語った。

 

定価2,420円(税込)四六判/384㌻

 

□創業年=1998年
□所在地=東京都新宿区岩戸町12 レベッカビル
□刊行点数=35点(年間)
□従業員数=約20人(2025年3月時点)

 

内田真介さん
代表取締役社長。1980年生まれ。2005年神戸製鋼所に入社。10年有限会社ベレ出版入社。14年より現職。日本書籍出版協会理事、出版梓会副理事長。