【出版時評】電子化で文庫戦争再来か

2021年2月8日

 昨年春から続けているオンラインセミナーで、今月は「キーパーソンに聞く」という連続セミナーを開いている。その第1回でメディアドゥの新名新副社長をお招きした。話は多岐にわたったが、その中で「マンガ」以外の電子出版について、かつての文庫戦争のような状況が想定されると指摘された。

 

 出版科学研究所の調査で文字もの電子書籍市場は2020年に401億円。規模は電子コミック市場の11%程度に過ぎないので目立たないが、14・9%増と伸びている。

 

 文藝春秋は今年4月から、佐伯泰英氏の時代小説の電子書籍配信を開始すると発表。なんと一挙に123タイトルをリリースするという。電子化を認めてこなかった著名作家がコロナ禍で次々に電子書籍化に踏み切っており、他の大物作家でも同様の動きが加速しそうだ。

 

 KADOKAWAに在籍していた新名氏は、かつて他の編集者が著名作家に書棚を指さし「ここからここまで当社の文庫に入れましょう」と、文庫化権を取得していたと話した。そんな状況が、電子書籍化を巡って起こるだろうという見立てだ。「まだ商売にならない」と思っている時期に勢力図が変わるのはよくあること。文芸の世界もそんな変化にさらされるのか。

 

 セミナーは次回、日販の奥村景二社長、続いてポプラ社・千葉均社長をお招きする。

 

【星野】