【出版時評】AI活用と人への投資

2021年9月13日

 高名なプロ棋士を破ったことがAI進化の証として話題になったが、一定のルールで動く駒の数限りないパターンで勝負する世界はAIが強いのだろう。一方で、パターンがない世界で新しいことを思いついたり、ひらめいたりするのは、まだしばらく人類の方が得意かもしれない。

 

 本の商品特性のひとつは、繰り返し購入されないことだ。過去に買ったことを忘れていたり、人に贈ろうとでも思わない限り、同じ本を購入することはまずない。だから、通常の消費財のように売れたからといって、同じ本を並べ続ければ良いわけではない。このことが、本のマーケティングを難しくする。

 

 おそらく、季節要因や大量の購買履歴から仕入数を決めたりすることで、AIは出版の世界で力を発揮してくれるだろう。そして、人は棚作りや思いつきでの仕入などに注力する。小さな店ならAIの力を借りるまでもないだろうが。

 

 アルゴリズムによる本の仕入はネット書店が先駆者である。出版流通でAIを活用するといっても、これまでの「見計らい配本」を効率化するような発想ではうまくいくまい。AIはあくまでも人の創意をサポートするものでなければならないし、リアル書店を魅力的にするための人への投資はこれからさらに必須になる。そのための原資を生むことに役立ててほしい。         

 

【星野渉】