某月某日
先輩ご夫妻から、「ぎんざ寄席」にお招きいただく。落語をナマで聴くのは2005年、「新宿末廣亭」での林家正蔵・襲名披露以来16年ぶり。創業明治30年、火事と空襲で2度焼失するも戦後まもなく再建された木造建築の内外観は実に風情があった。
「ぎんざ寄席」でトリを務めたのは我が家で毎週末観ている「ゴルフ天下!たい平」でお馴染み、林家たい平師匠。高座に上がる“本業”の姿は新鮮で、さて実力は如何に?と、期待を裏切らず、古典落語「井戸の茶碗」でテンポの良い見事な噺っぷりを披露。会場を包む笑いの渦も心地よく、落語の面白さを再認識する。
某月某日
『味の手帖』巻頭「茂木友三郎対談」に同席。ゲストはNHK「クローズアップ現代」の顏だった国谷裕子さん。怜悧な美しさと、国際派ジャーナリストらしい鋭い語り口が魅力で、密かに憧れていたから、ちょっと嬉しい時間。
23年間務めた「クロ現」のキャスターを降板した折には、その理由に様々な憶測が飛んだ。『キャスターという仕事』(岩波新書)で、真情を吐露する下りがあるが、この日も「日米のジャーナリズムの違い」が背景にあったと。
例としてあげたのが、96年の在ペルー日本大使公邸占拠事件後のフジモリ大統領へのインタビュー。アメリカのメディアは、人質解放を労った後に、「ところで大統領は独裁的ですよね」と切り込むが、そこはお互い恨みっこ無し。しかし日本では「掌を返した質問をする」と腹を立てることに。
5年余りの雌伏の時を経て、再び表舞台に立つ日を、ファンのひとりとして待つばかり。
某月某日
KADOKAWAに夏野剛・新社長を訪ね、お話を伺う。夏野さんとは、2004年に『味の手帖』の取材でお目にかかって以来の再会となる。当時39歳、ドコモ・iモード開発の中心メンバーで、初対面の印象は「自信満々の尖がった若者」。しかし、携帯電話でのインターネットビジネスモデルをゼロから発想し、5年間で通信収入1兆円を叩き出したと聞くにつけ、類まれな異能の人であると、自らの狭量さを恥じた記憶がある。
あれから17年、斯界の第一線を走り続けた56歳の夏野さんは、休日に息子さんと書店を回る出版人に。この複雑怪奇でややこしい業界にどのようにメスを入れるのか、しばらくは目が離せない。
【文化通信社 社長 山口】