【出版時評】「悪」ではなかった返品

2021年10月19日

 取次各社や大手書店が進めている出版流通改革では、書籍の返品率を下げて書店マージンを増やすことが大きなポイントになっている。そのために、新たな契約制度を作ったり、AIによる需要予測などが試みられている。

 

 市場の縮小や、取次各社の配本抑制、そして返品減少に向けた取り組みによって、1990年代後半から2010年頃まで40%近い水準だった書籍の金額返品率が、20年には33・0%と、ピーク時と比べるとかなり下がっている。

 

 しかし、かつて返品は必ずしも「悪」とはされていなかった。環境に負荷をかけるという指摘はあったものの、市場規模を維持、拡大するためには、むしろある程度のロスは見込んで、店頭に商品を並べることが必要とされていた。

 

 出版社には、売り上げを増やすためなら多少返品が増えてもかまわないという「本音」があったし、書店側も欠品は怒られても、返品が増えることで怒られることはないという風潮があった。とくに名書店人と言われた何人かが、返品制度を使って品揃えをするのが書店員の能力だと話していたのが印象に残っている。

 

 出版流通が切羽詰まる状況の中、そういう考え方はすっかり陰を潜めた。しかし、積極的な販売姿勢や独自の品揃えを追求することが否定されるわけではない。返品を前提としない、新たな販促や仕入テクニックが必要になる。         

 

 【星野渉】