【行雲流水】文化通信2021年10月19日付

2021年10月19日

 某月某日

 緊急事態宣言明けの週末、栗の郷、長野県小布施町へ。6月の小紙「トップインタビュー」でお話しを伺った「小布施堂」の主人・市村次夫さんに予約至難の「桝一客殿」を予約してもらう。ここの宿泊客だけが、新栗を使ったモンブラン「朱雀」を並ばずに味わうことができるからである。砂糖を一切加えず作られたそれは、栗の鮮度を実感するものであった。

 隣に建つ「北斎館」では、葛飾北斎が晩年にたびたび訪れた当地で描き残した「祭屋台天井絵」が圧巻。充実の収蔵品を閉館間際までたっぷり堪能する。

 人口の10倍、110万人の来街者を呼び寄せ、松本を抑えて県内一のリピート率を誇るこの町の魅力が詰まる別の引き出しを開けに、次は初夏に訪れてみよう。

 某月某日

 翌日の夕刻、松本に立ち寄る。

 ライトアップされ、水堀に映える国宝・松本城の雄姿が美しい。

 大町で何度か訪れた蕎麦屋「こばやし」が近くにあると聞き街に出ると多くの人で賑わっている。聞けば、「四柱神道祭」と呼ばれる代表的な祭りとか。花火が上がり露店でにぎわう縄手筋を散策。焼き物の店に立ち寄り、頃合いの太唐草の丼を購入する。宿に戻り丼を包む新聞紙を広げると、なんと10月1日付『市民タイムス』創刊50周年記念号とは、奇遇。

 「郷土の『いま』をきめ細かく報道し、人々の笑顔や頑張りを伝えていきたい」という新保裕介社長のメッセージに、6万部を発行する全国有数の地域紙としての矜持をみる。来月には小社が初めて取り組む「ふるさと新聞アワード」の発表もある。祭りも丼も、絶妙な出会いがなんとも嬉しい。

 某月某日

 京都にNPO法人「和の学校」の吉田理恵子理事を訪ねる。

 「和の学校」を立ち上げたのは千宗室家元の弟、45歳で早世した伊住政和宗匠で、亡くなる直前まで「味の手帖」の連載執筆をお願いしていた。その後も理事や会員によって連載は引き継がれているが、そうした方々の中から吉田さんの骨折りで、小川後楽・小川流煎茶家元、茂山あきら・大蔵流狂言師、池坊専好・華道池坊次期家元、金剛永謹・能楽師金剛流宗家、梶田真章・法然院貫主などが選書したものを、年末から始まる「ギフトブックキャンペーン」のカタログブックに掲載する。

 伊住さんからいただいた、有難いご縁である。合掌