【行雲流水】文化通信2022年3月15日付

2022年3月15日

 某月某日

 NEWBOOK・豊川竜也社長を尋ねる。同社は1965年に出版倉庫業を営む会社としてスタートし、竜也社長がフルフィルメントとプリントオンデマンドを新たなコア事業として加えた。

 PODでは、一昨年解散した創文社が刊行した「トマスアクィナス 神学大全」全39巻を講談社から「創文社オンデマンド叢書」として受注し、税込み27万円近い価格にもかかわらず数十セット販売したという。また、写真を多く含むものや漫画はスキャナーではなくカメラで撮影し、2年かけて開発し特許を得た高解像度デジタルデータ化技術で原本をしのぐほどの美しい再現性を実現した。

 さらに印刷から流通、販売まで「地産地消」とするサプライチェーン革命を目指したいと語る今後の取り組みに注目したい。

 某月某日

 月刊「潮」をつまみ読みする。「こどものための100冊」や「ほんのきもちです」で選者をお願いしている三浦瑠麗さんや内館牧子さんのほか、「ふるさと新聞アワード」で審査をお願いしている温泉エッセイスト・山崎まゆみさんの連載を毎号楽しみにしている。

 4月号は「高倉健と龍飛崎温泉『ホテル竜飛』」。映画「海峡」のロケで滞在した折の高倉健のエピソード。当時5歳だった同ホテル社長と鬼ごっこやかくれんぼをしたり、20代だった女将に「俺は無口なんかじゃないよ。北国が似合うなんて言われてるけど九州の生まれだからね、俺」と語ったり。下戸で生魚が苦手、しゃぶしゃぶやすき焼きなど肉が好物で、朝食は東京から送らせたライ麦パンに健康ジュース…等々「証言」の数々が面白くもあり、懐かしい。

 某月某日

 四谷・荒木町の路地裏に渡辺文雄や石津謙介が愛した、10人も入れば一杯になる小体な店がある。冬場の「あんこう鍋」が旨い。

 鍋の前に供される「前座」が逸品揃い。蒸しあん肝、若竹煮、平目の昆布締め、今年は「にぎりこ」の粕漬も。漁船の上で腹出しされ塩漬けされた数の子で、生卵の旨味がそのまま残る幻の一品。

 「たまる」のあんこう鍋の割下は、出汁に醤油と酒に少しの味噌と唐辛子で味を締める。そこに鮟鱇の身と内臓、白菜、焼き豆腐、茸。川柳に「あんこうは唇ばかり残るなり」とあるが唇も吸い、〆は固めに炊かれたご飯に汁をひたひたに掛けてズズッと掻き込む。合いの手の糠漬けがこれまた旨い。

【文化通信社 社長 山口】