【行雲流水】「The Bunka News」2022年8月30日付

2022年8月29日

 某月某日

 富士裾野の山小屋で過ごす夏休み。地元の肉屋で求めた焼肉コロッケ、メンチカツはビールで、馬刺しはゴマ油と塩、友人夫婦が持参した仙台牛のランプ塊肉やカルビ、ハラミはタレで揉み、七輪で焼いてワインをしこたま飲む、三夜連続のプチ・バーベキュー。
 この辺りで唯一、外食の楽しみは、15分ほど下りた「蕎仙坊」での昼餐である。山形から移築した古民家の佇まいが心地よい。生湯葉、山ふぐ(蒟蒻の刺身)、鴨と芋がらの炊合せ、鴨焼き、精進天ぷら、漬物でビールと冷酒が進む。田舎そばを塩で、せいろはそばつゆで手繰る。ひぐらしが合唱を始める頃、妻の運転で帰還。

 

 某月某日

 社より徒歩2分、オーム社に村上和夫社長を訪ねる。1918年(大正7年)、同社が書籍として初めて発行した『百故障失策』を見せてもらう。タイトルの上下に「あゝしまった!」、「あゝこまった!」とあるのがカワイイ。
 序文に「失敗は成功の基とは千古の金言、 なるべく多數の故障と失策とに遭遇せし人は斯界の老将たるを得べし、…(中略)…失敗を秘せんとするは人情の常にして、之を公表せざるがため、關係者以外之を知るに由なく、徒らに類似の故障に苦しみ、同種の失策を重ぬるの愚を演ずる者世間比々皆然り。」とあり、100件の失敗談が掲載されている。小紙でも「私の失敗談」を企画してみるかな。

 

 某月某日

 小学館・相賀、講談社・野間両社長を相次いで訪問する。
 Tシャツとジーンズ姿で爽やかに現れた相賀信宏社長、小社が発行するギフトブックカタログは、次回若者向けの選書にすると話すと、「週末に『児童出版文化賞』の候補作を読んだが、次々と読了できるので達成感がある。厚みはなくても内容はしっかりと充実している。若者が本に親しむきっかけとして、児童書は存外いいかも」と。なるほど、といたく共感。
 野間省伸社長は、今春、丸紅グループ、小学館、集英社と共に立ち上げた新会社・PubteXへの意気込みを語る。 AIを駆使した発行・配本の最適化と、ICタグの装着による在庫管理や個別取引条件の設定、書店でのサービス向上、万引き防止、棚卸の効率化など、DX革命を目指すものだ。取次、書店チェーン各社で温度差もあるようだが、出版業界の未来を決めるこの取り組みに「次は無い」と言い切る眼差しは真剣だ。【代表取締役・山口健】