中学生の頃、毎晩星空を見上げていた。無理を言って望遠鏡を買ってもらい、月のクレーターや、ほんのわずか見える木星の模様、星座・星団・星雲に見入っていた。
時が経ち、仕事をするようになると下ばかり見るようになった。周囲に頭を下げ、手元の書類やキーボードと一日格闘し、「あー疲れた」とつま先1.5㍍のあたりに目線を落とし、45㌢の歩幅でとぼとぼ帰宅する。
週末に通う畑でも、苗の様子を観察し、虫をつまみ出すなど基本、下を向いている。でも、一息ついたときに見上げる空の美しさは格別だ。夏の色濃い青空と力強い入道雲も好きだが、気温が下がって空気が澄み、絹のような雲が高く漂う様子は本当に心地いい。少しずつ形が崩れていく飛行機雲、悠然と飛翔する鳶。空を見上げるだけで心が空っぽになる。まもなく新年を迎える。多くの人が上を向き、大きな歩幅で元気に歩ける年となってほしい。
【櫻井俊宏】