【行雲流水】「The Bunka News」2023年1月17日付

2023年1月17日

 某月某日

 久方ぶりに連日連夜の忘年会が続く。ほとんどがプライベート。リタイアする年頃とあって旧友たちとの集いも多かった。

 元バンカーは"乗り鉄"で全国を巡り、元商社役員は毎日野菜作りに汗を流している。再雇用で週4日勤務にして、熱海に購入した別宅で釣り三昧という趣味人もいる。「オレは仕事が趣味」という"昭和のオヤジ"の台詞はもはや出てこない。「今年はスキーを復活、いやスノボにするかな」とうそぶくも同調者無し。本気なのだが…。

 老境入りを実感するジケンがあった。「介護保険被保険者証」が送られてきたのである。老母の保険証は最近更新されたばかりのはず…と改めて見ると、我が名が記載されているではないか。今月「前期高齢者」となるプロローグ。

 某月某日

 大晦日から三が日は来客が続く。毎年"浮世の義理"で求める、和洋中のお節をやっつけた清酒とワインの空き瓶が並ぶ。

 2日には、BS松竹東急で1957年公開の映画「大忠臣蔵」を観る。生まれる前の作品ゆえほとんどは知らない顔ぶれだが、名だたる歌舞伎役者を配し、「仮名手本忠臣蔵」に創作も織り交ぜた3時間は見応え十分。毎年楽しみにしていたテレビ東京「新春ワイド時代劇」が2000年までの12時間から16年には3時間に短縮されて終了して此の方、ぽっかり空いていたココロの穴を埋めてくれた。BS松竹東急、ブラボー!

 4日は、建て替え前、最後の新春公演となる国立劇場で「遠山桜天保日記」を。粋な江戸っ子と旗本の貫禄はやはり菊五郎のはまり役。菊之助は若旦那から悪党になり切れぬ役回りに、凛々しい丑之助と、親子3代の舞台を楽しむ。

 某月某日

 さて、仕事始めである。会議のあと、デパ地下で総菜を買い込み、夕刻より事務所でささやかな新年会。乾杯に先立ち、伊藤忠・岡藤正弘会長CEOの言葉、「か・け・ふ」を引用し、発破をかける。

 活字業界の経営者や現場の方々のお役に立つことで「稼ぐ」、無駄な時間とカネを「削る」、失策や失敗を「防ぐ」。(これが一番難しい)

 野地秩嘉氏の近著「伊藤忠」(ダイヤモンド社)には、削った金で「ガンで亡くなった社員の配偶者は必ず雇用する。子息は何人いようとも大学院までの学資を補助する」とある。「社員は家族」という耳慣れた言葉より、具体的で説得力がある。岡藤氏の英断に、喝采。

 

【代表取締役・山口健】