東京では3月というのに桜が満開になり、千鳥个淵あたりは花見のタイミングを逸しまいとする人々や大学の卒業生でにぎわっていた。日本が14年ぶりに優勝したWBCの会場は多くの人の熱気であふれ、春の選抜高校野球も入場や応援などの制限が緩和された。コロナ前の生活にようやく戻る気配が見えてきた。
出版物の売れ行きは、コロナの巣籠特需が終わり、昨年来厳しい状況が続いているが、この社会の変化に対応し、プラスに向けられるか。
かつてある書店人が、書店同士で「売れないねー」とあいさつするのはおかしいとこぼしていた。「売れない」のではなくて、「売っていない」のだと。書店は出版社が作った本を売るので受け身になるのはわかるが、それをいかに売るのかが小売業だと、その書店人は嘆いていた。
本は指向性が強く、繰り返し購入されることがないので、一般的な消費財のような商品個々のマーケティングは難しい。ややもすると業界全体が「売れないねー」と受け身になりがちだが、そこを何とかしなければ、苦境を乗り越えることは困難だ。
リアルイベントが解禁されて、各会場も埋まってきているようだ。そうやって人々の生活も戻りつつあるいま、本への興味を掻き立てる情報発信やイベントなどを、ぜひとも考えて、新年度を「売っていこう」という年にしてもらいたいものだ。
【星野渉】