【出版時評】大手取次の本業が大幅な赤字に

2023年6月6日

 大手取次2社の2022年度決算は、いずれも取次事業で大幅な赤字を計上した。市況悪化による出版物全般の売上高低迷と、物流経費の高止まりが要因だというが、本業(取次事業)の再生を目指す両社が、「改革」を加速させる要因になるだろう。

 

 日本出版販売(日販)の営業損失は20億6700万円、トーハンの取次事業は10億4500万円の経常損失を計上。日販は書店の取引変更(帳合変更)の影響もあって商品売上高が12・3%減に、逆に取引先を獲得したトーハンも5・6%減となった。

 

 両社とも、経営計画の目標に、事業領域の拡大と、本業の再生を掲げる。新たな事業では、不動産活用や文具・雑貨など多様な商材の取り扱い、さらにはコンテンツ事業や海外事業など様々な領域に手を広げ、それなりに成長している。ただ、やはり圧倒的な規模を持つ本業の安定は必須の経営課題だろう。

 

 それぞれ流通改革に取り組んできたが、ここにきて、赤字の最大要因が物流経費の高止まりにあるとするトーハンは、出版社に対して取引条件見直しに踏み込んだ交渉を開始。日販は不採算配送ルートを見直すなど再編を強く進める。これらの動きが加速することは間違いないだろう。

 

 かつて出版業界でよく聞かれた「三位一体」に象徴される相互依存体質が、過去のものだということを改めて実感させられる。   

 

【星野渉】