【行雲流水】2024年6月25日付

2024年6月24日

某月某日

 

 『味の手帖』巻頭、「茂木友三郎対談」に同席する。ゲストは私の古巣、東急の野本弘文会長である。

 

 冒頭、3月に連載された日経新聞「私の履歴書」の話題に。自宅マンションのエレベーターで、見知らぬオバサマから「野本さんですよね?」と声をかけられたとか。「休みの日も変な格好で出かけられなくなりました」と。飾らぬ人柄が和やかな時間を醸し出す。

 

 話題は、100年に一度といわれる渋谷再開発の未来図に。道玄坂や宮益坂の底地にある渋谷駅。そのスリバチ状の地形に人工地盤で蓋をかぶせ、人のみが行き交う大きな広場ができる計画が2030年には完成する。かつて野本さんが熱く語っていた「24時間、眠らない街」が現実のものになる。

 

 当時、ブレインストーミングに引っ張り出され、「高層ビルの最上階に老舗旅館を誘致して毎日温泉を運んで世界一高い露天風呂を設けよう」とか、「宮益坂は一方通行にして、できたスペースにはセンター街に対抗してオトナ向けの老舗を誘致しよう」と発案、愉しく議論したことを懐かしく思い出す。実現することはなかったが…。

 

某月某日

 

 東日本大震災の孤児遺児を支援するチャリティディナーで、篤志家であるサンヨー食品・井田純一郎社長が競り落とした「イタリア大使公邸での夕食会」に、同じテーブルにいた面々がご相伴に与る。

 

 港区・三田のイタリア大使館は、赤穂浪士が討ち入り後、大石主税らがお預け、切腹となる伊予松山藩中屋敷だった場所に建つ。自ら庭いじりをするというジャンルイジ・ベネデッティ大使が、古地図を手に庭園と建物を解説してくれる。館内のインテリアや家具、アート、もちろん食事も素晴らしい。日本の美意識と共通している。

 

某月某日

 

 4年目となる「こどものための100冊」のカタログが完成した。選書をご快諾下さった著名人の方々と書店、図書館員に改めて感謝。今年も大手保育園4社の園児への配布と、赤ちゃん本舗の通販商品の送付に同梱するほか、約120店の書店などで合計15万部の冊子をパパ・ママに直接届ける。

 

 巻頭言を頂戴した尾木直樹先生と心理学者の秋田喜代美先生は、共に読み聞かせの効用を説かれている。絵本の泰斗、広松由紀子さんが事務所に所蔵する海外モノの、四角に限らぬ自由なフォーマットと創意工夫に眼からウロコ。その感性と遊び心に学ぶこと、多し。【山口健】