【出版時評】2024年9月3日付

2024年9月2日

 大学で学生から「ペンを持っていません」と言われた。驚いて聞き返すと、板書などを記録するにはスマートフォンを使い、筆記具を持っていないというのだ。

 

 一方、教員側もプレゼン用ソフトで資料を作り、投影しながら授業をするのが一般的になっている。その資料は大学のクラウドで学生に共有されたりする。

 

 中には教科書や参考文献の版面データをサイトに上げて、誰でもダウンロードできる状態にしている教員もいる。これはさすがに著作権侵害だろうが、補償金を払うことで教育目的利用を認めた「授業目的公衆送信補償金制度」が曲解されている面もあるようだ。

 

 従来も著作物の教育目的利用は権利制限の対象とされてきたが、教育へのICT活用を促進するため、「授業の過程で利用するために必要な公衆送信」が従来よりも広く認められるようになった。

 

 もちろん、なにをしても良いわけではなく、「必要と認められる限度」など細かく規定されている。それでも、学生に限らず誰でも使える状態で著作物をネットに上げている例を見ると、「補償金を払えばいい」と認識している教員がそれなりにいることがわかる。

 

 大学の授業や教科書、そして学生たちのリテラシーが変わっていく中で、どうバランスをとって制度を作るのか課題である。【星野渉】