【出版時評】2024年9月10日付

2024年9月24日

コミックのデジタルシフト

 

 集英社の第83期決算は、売上に占める雑誌、コミックス、書籍、デジタルを合わせた「出版売上」の比率が6割を切り、「出版売上」のうちデジタルが59・4%と6割に迫った。紙の出版物販売が減少し、映像化や舞台化など版権収入と主にコミックのデジタル収入が伸びたためだ。

 

 コロナ禍後にコミックのデジタルシフトが加速しているように見える。今でも大ヒットコミックスの新刊は1巻当たり数百万部を発行するが、過去作品が映像化などで話題になると、デジタル版が多く読まれるという。紙市場の縮小は流通サイドからすると気になるところだが、デジタル化によって幅広い作品に光が当たるという効果もある。

 

 デジタル化はコミック分野への参入も容易にした。雑誌や単行本を発行したり、そのために取次の口座開設や倉庫の手配、書店営業などをしなくてもすむので、小規模でもスタートできる。

 

 これまでコミックを手掛けていなかった異業種からの参入もあるが、なかには投稿作品を編集せずにそのまま配信したり、書き手への還元率が極端に低いといったケースもあるという。

 

 市場が拡大し、魅力的なビジネスに映る時期には起こりがちなことで、今後、粗製乱造は淘汰されていくのかもしれないが、業界として秩序を整えて、健全に市場が拡大することを期待したい。【星野渉】