株式会社イースト・プレス
ブレイディみかこ推薦
「子どもに親を選ぶことができたら。人類の究極の『IF』に挑んだティーン小説。大人こそ読んでこころの準備をしておいたほうがいい」
「親ガチャ」という言葉が流行る日本社会に投げかけるもの
韓国で25万部を突破した、小説が待望の翻訳となる。
作品名は「ペイント」。
事情により子どもを育てられなくなった親が、子どもを預ける「NCセンター」が設立された近未来が舞台だ。
そこでは子どもが親を選ぶ面接「ペイント(ペアレントインタビュー)」が行われている。そんなNCセンターに在籍する17歳の少年ジェヌが、この物語の主人公なのだ。
自分の親を自分で選ぶ――。
作中でジェヌは、「ペイント」をしながら親や家族という存在について思索し、自分の進む道をつかもうとする。
その姿は、「親ガチャ」という言葉が大きな話題となっている今、多くの人の心に強く訴えかけるだろう。
『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者チョ・ナムジュは、本作について次のように語っている。
「『ペイント』は、11歳の娘が先にひったくるようにして持っていった本だ。ものすごく面白い、と本から手を離せなくなっている娘の姿に、正直心がチクリとした。 娘が学校にいっている隙にこっそり読みはじめた。読んでいるあいだじゅう、いい母親になりたいのにどうしていいかわからない私のそばへ、かつての自分がやってきて座っていた。親の関心や理解を求めていた幼い頃の私、そして、絶対に親元を離れると誓っていた20代の私が。いつのまにか母親になった私は、娘とともに『ペイント』のなかの「親を選ぶ子供たち」「親になろうとする大人たち」そして「かれらを手助けするセンターの大人たち」がそれぞれどんな想いだったか、ひとしきり語り合った。その語り合いが遠い未来まで続くであろうことを、私は知っている」
描かれる「差別」
本作ではもう一つ重要な問題が描かれている。
「差別」だ。
20歳のセンター退所期限までに親をみつけなれば、センター出身という経歴がIDカードに刻まれる。
過去にNCセンター出身者による犯罪が行われたことで、社会にはNCセンター出身者への偏見が存在し、その経歴が刻まれないよう、子どもたちは必死にペイントを続けているのだ。
翻訳者の小山内園子氏は、作品についてこう語る。
「自分と違う者を線引きするふるまい。本当に相手は自分の側の人間かと疑う眼差し。社会の枠組みを前提として、差別をかわすために、NCの子どもたちはペイントを進めていきます。しかしジェヌは何度か立ち止まって考えます。ジェヌが何に引っかかっているのか。どんな選択を下すのか。結末を知った後で、ジェヌが折々に悩んでいた場面をもう一度読み返したくなるかもしれません」
『ペイント』は、差別とは何か、そしてそれにどう抗うか。
私たちにストレートにつきつける作品でもあるのだ。
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書誌情報
『ペイント』
イ・ヒヨン著 小山内園子訳
2021年11月17日発売
1500円+税
ISBN:978-4781620237
プロフィール
イ・ヒヨン(李喜榮)
短編小説「人が暮らしています(사람이 살고 있습니다)」で2013年に第1回キム・スンオク文学賞新人賞大賞を受賞してデビュー。
2018年『ペイント』で第12回チャンビ青少年文学賞を受賞。25万部を越える大ベストセラーとなる。さらに同年『きみは誰だ(너는 누구니)』で第1回ブリットGロマンススリラー公募展大賞も受賞した。他に長編小説『普通のノウル(보통의 노을)』、『サマーサマーバケーション(썸머썸머 베케이션)』などがある。
小山内園子(おさない・そのこ)
東北大学教育学部卒業。社会福祉士。
訳書に、ク・ビョンモ『四隣人の食卓』(書肆侃侃房)、キム・ホンビ『女の答えはピッチにある』(白水社)、カン・ファギル『別の人』、共訳書に、イ・ミンギョン『私たちにはことばが必要だ』、『失われた賃金を求めて』(タバブックス)、チョ・ナムジュ『彼女の名前は』(筑摩書房)など。
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