株式会社エヌエイチケイ文化センター
受賞決定の瞬間、カメラがとらえたのは、顔色ひとつ変えず、淡々と受け答えし、記者会見場へ向かう作家佐藤究氏の姿だった。その時、何を思ったのか?番組では伝えきれなった佐藤氏の思いを聞き尽くす、NHK文化センターならではのスペシャル企画。「古代アステカ文明」から「麻薬戦争」「臓器売買」といった現代の資本主義の闇を自在に行き来する553ページの超大作『テスカトリポカ』を生み出した佐藤氏。構想から3年、緻密な文献検証、ダイナミックな構成、圧巻のエンタメ小説が生まれた背景とは?聞き手は、編集者上野秀晃氏(KADOKAWA)。選考結果を作家とともに固唾をのんで待った張本人だ。編集者にしか聞き出せない緊張感や創作秘話が。これが“本当の”直木賞舞台裏。
文芸界の紅白歌合戦「直木賞」に間違ってエントリー?!
作家佐藤究氏への最初の取材は今年6月、直木賞の候補作に選ばれた直後。心境をうかがった。
「直木賞って大きな賞じゃないですか、いわば文芸界の紅白歌合戦と僕は位置付けているんですけど、これ(自作『テスカトリポカ』)はね、どっちかって言うとアンダーグラウンドのメタルバンドみたいなサウンドなんですよ。ちょっとエントリーしないものが候補作としてエントリーしてしまっているという感じで、喜びというよりは大丈夫なのか?と。エントリーされてるけど、『実は手違いでした』みたいなことが有りうるんじゃないか、と、そういう感じです。」
このインタビューが、まさに“波乱含み”の第165回直木賞選考会を予言していた。
3時間に及ぶ大激論 これは直木賞にふさわしいのか?
「テスカトリポカ」とは、アステカ文明の神。この神を信仰する男が、メキシコでの麻薬戦争に敗れ、東南アジアのインドネシアへ逃亡。そこで出会ったのが、日本人の「臓器ブローカー」だった。
「心臓こそが人体のダイアモンドなんだよ 血の資本主義。その赤いマーケットに流通するあらゆる商品のなかで、心臓に最高の値がつく。新鮮な心臓はピラミッドの頂点に置かれている。」(本文より)
番組スタッフもみな読んでみた。「ページめくるたびに人が命を落としていく。」「おっかないよ。」・・・・。実際、目を背けたくなるような暴力描写が多く「直木賞にそぐわないのでは?」と話題に。直木賞選考委員たちがどう評価するか、注目を集めていた。
2021年7月14日、午後3時、直木賞を決める選考会が始まった。編集者上野氏と四谷の喫茶店で結果の知らせがくるのを待つ作家佐藤氏。通常2時間ほどの議論で決着がつくことが多いという。しかしこの日・・・午後5時半をすぎても連絡は来ない。この時の作家の心持とは・・・そして、構想から3年以上かけ伴走してきた編集者の気持ちとは・・・・。午後6時、携帯電話が鳴る。「はい・・・・はい・・・・はい、わかりました。」と淡々と電話を終える佐藤氏。「どっちだったと思います?」え?このシチュエーションでこの究極の質問を編集者に投げかけた。四谷の喫茶店になんともいえない緊張感が張り詰める。返答に戸惑う編集者をよそに、サクサクと荷物をまとめリュックを背負う佐藤氏。「帝国ホテルに来てください、って」。周囲は一瞬にして安堵と喜びに包まれる。向かうのは日比谷の帝国ホテル、受賞者の記者会見会場だ。
3時間にも及ぶ、大激論の末に決まった直木賞。
「これは希望の物語です」(林真理子)
「直木賞の長い歴史の中に燦然と輝く黒い太陽」(宮部みゆき)
古代文明と現代の資本主義の闇が“必然”で結びつく壮大な物語。強烈な作風、そして作者自身の強烈な個性で、出版不況が叫ばれる現代に爪痕を残す傑作が誕生した。
「文学界を変えなきゃいけない。」これが直木賞の舞台裏、ホンキトーク
直木賞の候補作に選ばれた直後のインビューで、もうひとつ忘れられない発言があった。ノミネートの高揚感とはかけ離れた、冷静な口調。
「業界的にはやっぱり変わらなくてはいけないという声がだんだん大きくなってきている。僕は推理作家協会というところに入っているんですけど、今、京極夏彦代表理事がいらっしゃって『新しく変えていかなければいけないんだ』と、おっしゃる。要するに『お前たちが変えていけ』っていう空気です。僕ら世代は本当にこの業界にきた時からずっと出版不況と言われ続けていい時を知らないわけじゃないですか。だからこういう(直木賞に)ノミネートして頂いて一人万歳って言ってるような状況でもないかな、本が売れていればそうなるんでしょうけど今はちょっと違うかなと思っています。」
直木賞の栄冠を手にした作家佐藤究氏。今後どんな風に文学界を変えてゆくのか?「今回の特別講座で少し未来の話しもしようと思います。」と打合せで言ってくれた。期待は募る。
講座名: 直木賞受賞作『テスカトリポカ』はこうして生まれた
講師:作家 佐藤究
聞き手:編集者 上野秀晃(KADOKAWA)
受講形態:教室&オンライン
開催日時:11月22日(月) 19:00~20:30
受講料金:
【教室受講】NHK文化センター会員税込3,432円・一般(入会不要)税込4,125円
【オンライン受講】NHK文化センター会員・一般とも税込2,750円
※別途2,310円で著者サイン本付きコースもあります
主催:NHK文化センター青山教室
【教室受講】
https://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_1240168.html
【オンライン受講】(1週間見逃し配信付き)
https://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_1240160.html
<講師プロフィール>
1977年福岡県生まれ。2004年に佐藤憲胤名義で書いた『サージウスの死神』が第47回群像新人文学賞優秀作となりデビュー。2016年『QJKJQ』で第62回江戸川乱歩賞を受賞。2018年、受賞第一作の『Ank: a mirroring ape』で第20回大藪春彦賞および第39回吉川英治文学新人賞のダブル受賞を果たす。2021年5月に『テスカトリポカ』で第34回山本周五郎賞、7月に第165回直木賞を受賞。同一作品での両賞受賞は17年ぶり2人目。
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