週刊点字新聞「点字毎日」が創刊100年

2022年5月14日
株式会社毎日新聞社
毎日新聞社が発行する週刊点字新聞「点字毎日」が5月11日、創刊100年の節目を迎えました。新聞社が発行している国内で唯一の点字新聞です。1922(大正11)年の発刊以来、一度も休むことなく、編集部が独自に取材、編集したニュースや生活情報を視覚障害のある読者に届け、視覚障害者と社会をつなぐ架け橋になってきました。これからも、読者の皆様に必要な情報を伝え続け、多様性が尊重される「共生社会」の実現に向けて力を尽くしていきます。


1922年5月11日発行の「点字大阪毎日」(「点字毎日」の前身)創刊号の表紙
 点字毎日は1922年5月11日、大阪毎日新聞社(現・毎日新聞社)の大阪・堂島の新社屋落成記念事業の一つとして、4月2日発刊の総合週刊誌「サンデー毎日」、4月12日発刊の日刊英字紙「英文毎日」に続いて創刊されました。当時、日刊の点字新聞は世界になく、英国にいくつかあった週刊点字新聞も一般ニュースを点訳しただけ。点字毎日のように広く盲人関係のニュースを独自に取材し、論説も掲載した例はありませんでした。
 人は外界からの情報の約8割を視覚から得るとされ、それゆえに視覚障害者は「情報障害者」ともいわれています。まだラジオ放送も始まっていなかった時代、情報から隔絶されていた視覚障害者に「自ら読みうる新聞を提供し、新聞の文化的使命を徹底」することが創刊の目的でした。

「罪滅ぼし」からの出発
 点字毎日の構想が生まれたのは、創刊の10年ほど前。大阪毎日新聞社から英国に留学生として派遣されていた河野三通士(こうのみつし)に、当時オックスフォードで貿易商を営んでいた元早稲田大講師、好本督(よしもとただす)が勧めたのがきっかけでした。視覚障害があり、敬虔なクリスチャンだった好本は河野に「新聞社とか記者は知らず知らず罪を重ねている。善根を積んで、同業者の罪滅ぼしをしたらどうか。点字新聞を出してほしい」と伝えました。
 河野が会社に点字新聞創刊を提案すると、採算を危ぶむ声が上がりました。しかし、当時の本山彦一社長が「損得など問題ではない」と決断し、16ページ、毎週木曜日発行、定価10銭、800部でスタートしました。創刊号には首相や文相の祝辞のほか、英国皇太子の来遊や国際会議などの一般ニュース、外国の点字雑誌や新聞などの盲人関係のニュースが掲載され、菊池寛の小説「恩讐の彼方に」の連載も始まりました。
点字毎日の歩み(毎日新聞社作製)


ヘレン・ケラーも視察
 発行部数は次第に伸びて4年後には約4000部に達し、米国や中国に住む視覚障害のある邦人の間でも読まれました。大阪毎日新聞のキャンペーン報道と点字毎日による点字の普及が実り、1925年に普通選挙法が公布された際に、盲人の点字投票が認められました。物資が払底した第二次世界大戦中も、戦後の混乱期も発行を続け、55年には来日した米国の社会福祉事業家、ヘレン・ケラーが大阪にある編集室、印刷室を視察しました。63年に菊池寛賞、68年に朝日賞(後の朝日社会福祉賞)を受賞しました。
 95年の阪神大震災時には、被災地の視覚障害者のために、ライフライン情報などを掲載した「希望新聞点字版」を臨時発行しました。2009年には、点字を考案した全盲のフランス人、ルイ・ブライユの生誕200年に合わせ、点字と視覚障害をめぐる問題を掘り下げるキャンペーン報道を毎日新聞と連動して展開し、取材班は坂田記念ジャーナリズム賞を受賞しました。18年には日本記者クラブ賞特別賞を受け、「視覚障害者にとって長く貴重な情報源となってきた」と評されました。20年7月に通巻5000号を達成し、2年以上に及ぶ新型コロナウイルスの世界的大流行の下でも休刊せず、創刊100年記念の5月10・17日合併号は第5090号となりました。


「視覚障害者文化の歴史刻む」
 創刊100年記念合併号と5月11日付毎日新聞朝刊に特集記事を掲載しました。9歳で失明、18歳で聴力も失った全国盲ろう者協会理事で東京大学教授の福島智さん(59)も寄稿し、盲ろう者としては国内で前例のなかった大学進学を目指して予備校に通っていた40年前、点字毎日で「がんばれ、盲ろうの福島君」という見出しで自身が報じられたエピソードを紹介しています。福島さんは「その後現在にいたるまで、私はかなりの数と種類のメディアで取り上げられてきたが、自分のことがメディアで報道されたのは、この時が最初である。そしておそらく、もっとも私が勇気をもらった報道も、この記事だった」と打ち明け、「がんばれ、人間。がんばれ、『点字毎日』」とつづっています。
創刊100年の記念特集を掲載した「点字毎日」第5090号
 点字毎日の濱井良文編集長は「日々の暮らしの話題から学びの場や職業生活の充実を図る試み、福祉の制度化や充実の要求運動、権利獲得や擁護の闘争などなど、歴代の編集部は同時代を歩みつつ、その動きを紙面で報じてきた。読者がそれを点字で読み、共感を覚え、刺激を受けて次の行動を生み出していく循環があっての100年間だった」と振り返り、「点字で情報発信するという形をこの先も守り、視覚障害者文化の歴史を刻み続けながら、今の時代にふさわしい役割を模索し、次の100年に向け歩み続けたい」と決意を示しました。
 毎日新聞は11日付朝刊に点字毎日創刊100年にあたっての社告と社説も掲載し、点字毎日を長年愛読し、さまざま形で編集に協力してきた人々に思いを聞く連載企画「点毎とわたし」を社会面でスタートしました。

点字毎日(愛称・点毎=てんまい)
 視覚障害がある人のために、国内で唯一、独自の取材と編集で新聞社が発行する週刊点字新聞。視覚障害者に役立つニュース、暮らし情報を掲載しているほか、文芸、投稿欄も設けています。火曜発行、A4判60ページ。創刊以来、一貫して毎日新聞大阪本社の点字毎日部(06-6346-8388)で発行し、本社ビル地下1階に印刷室があります。現在、編集に関わるスタッフは、東京駐在記者を含めて9人。点字版の他、大きめの活字を使った活字版(タブロイド判)、音声で聞ける音声版なども出しています。

■毎日新聞社「点字毎日」紹介ページ
https://www.mainichi.co.jp/co-act/tenji.html

■特集記事「点字毎日 触れるぬくもり届けて100年」
https://mainichi.jp/articles/20220511/ddm/010/040/003000c

■毎日新聞デジタルの特集「点字毎日から」
https://mainichi.jp/ch160611202i/%E7%82%B9%E5%AD%97%E6%AF%8E%E6%97%A5%E3%81%8B%E3%82%89

■点字毎日の製作工程を紹介する動画(5分)
https://www.youtube.com/watch?v=kb33iysD8-c

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