スローニュース株式会社
NPO法人「報道実務家フォーラム」(東京都新宿区、理事長:瀬川至朗)と、スマートニュース株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役:鈴木 健)の子会社でノンフィクション、調査報道の新しいエコシステムづくりを目指す「スローニュース株式会社」(代表取締役:瀬尾 傑)は、すぐれた調査報道を顕彰する「調査報道大賞」の第2回授賞作品を、次の8作品に決定しました。
大賞(すべての作品から1作品)
国土交通省の統計不正問題をめぐる一連の調査報道(朝日新聞)
<授賞理由>
国の現状を市民が知る根本の公的統計が書き換えられ、社会問題の議論や政策立案の基礎になるデータが歪められていたという問題を記者の調査で暴き、市民に知らせた。報道がなければ気づかれなかった重大不正であり、報道後は首相が事実を認め、大臣が陳謝、改善に乗り出すという成果を生んだ。
<朝日新聞 社会部 伊藤嘉孝様より>
統計は社会を映す鏡であり、政策のあり方や税金の使い道を判断する材料です。それが、公務員の手で無断で書き換えられ、歪められているのではないか。そうした情報を得て始めた取材は、複雑さと専門性の高さゆえ、いくつもの困難がありました。まさに、報道機関のチーム取材の力を結集したからこそ成し得た報道だと考えます。報道がなければ、不正は明るみに出ぬままだったかもしれません。調査報道の使命の重さを再認識しています。
優秀賞(文字部門、映像部門、デジタル部門別に選考)
優秀賞 文字部門:公文書クライシス(毎日新聞)
<授賞理由>
「森友・加計学園」「桜を見る会」などをはじめとして、近年は常に政府の公文書管理や情報公開の問題が報道されてきたが、その根本の構造を長期間にわたる粘り強い取材で具体的に指摘した。メールが恣意的に公文書扱いされていなかったこと、公文書ファイルのタイトルが意図的にぼかされ、情報公開請求されないようにしていたこと、首相官邸の記録が残されていないことなど、この報道がなければ明らかにならなかった事実は多い。
<毎日新聞 東京社会部記者 大場弘行様より>
「霞が関には闇から闇に消える文書がある」。取材は官僚OBのこんな言葉を手がかりに始まりました。20人近い官僚の証言から見えたのは、すさまじい隠蔽体質でした。公用電子メールで重要な政策議論をしているのに公文書にしない。公文書ファイルの名前をわざとぼかして中身を隠す。首相が官邸内の打ち合わせで述べた言葉を記録することは事実上禁じられています。公文書は歴史の証拠であり、民主主義を機能させる基盤です。日本周辺で専制主義国の脅威が増し、民主主義の真価が問われている今、その重要性は高まっています。受賞で問題に再び光が当たることを願っています。
優秀賞 文字部門:
森友自殺 財務省職員 遺書全文公開「すべて佐川局長の指示です」の報道(週刊文春/相澤冬樹)
<授賞理由>
森友学園に関する財務省文書改ざんを苦に自殺した近畿財務局の赤木俊夫さんの妻を取材する中で記者が堅い信頼関係を築き、赤木さんが残した資料に基づき文書改ざんに関連する詳細な情報を報じた。圧倒的弱者が国に向かっていく勇気と強さを感じさせる報道でもある。
<相澤冬樹様より>
何も調査はしていません。遺書を見せていただいてから世に出せるまで1年4か月待ちました。その報道がご評価をいただき恐縮です。決め手はNHKを辞めたことでした。森友事件の最中に記者を外されることになり、取材を続けるため大きな組織を辞めようと決意しました。それがなければ遺書を見せてもらうこともなかった。決めたその時はわからなかったけど、あれが大きな分岐点だったのだと思います。
優秀賞 映像部門:
「NHKスペシャル「緊迫ミャンマー~市民たちのデジタル・レジスタンス~」
/「混迷ミャンマー~軍弾圧の闇に迫る~」
/BS1スペシャル「動画が暴いた軍の弾圧~ミャンマー クーデターから1年~」
/ウェブサイト「What’s Happening in Myanmar?」の一連の報道」(NHK)
<授賞理由>
ソーシャルメディアで発信された動画を集め、衛星写真や証言とも照合してデモ参加者が軍の発砲で死亡したことなどを明らかにした。公開情報を分析するOSINTの手法を日本のメディアとして本格的に導入しただけでなく、人々の証言を丹念に集める従来の調査報道の手法を組み合わせ、現地取材が十分にできない出来事に対応する新しい調査報道の形を示した。また、ミャンマーを報じ続けることでアジアのメディアとしてのあり方を示した。
<NHKプロジェクトセンター チーフ・プロデューサー 善家賢様より>
去年2月のクーデターを受けて立ち上がったNHKのミャンマープロジェクト。当初は、OSINTという新たな手法とは無縁だったメンバーもいる中で、皆が「デジタルハンター」となって、軍の弾圧の実態を解明する作業には、膨大な時間と労力が求められました。それを1年以上も続けられてきたのは、「自分たちが報じなければ誰が報じるのだ」という使命感だったと感じています。一人一人のそうした思いが、今回、「調査報道大賞」の優秀賞という素晴らしい賞を頂くことにつながり、心より嬉しく思っていますし、今後も報じ続ける決意を新たにしています。本当にありがとうございました。
優秀賞 映像部門:
「偽りのアサリ ~追跡1000日 産地偽装の闇~」(CBCテレビ)
<授賞理由>
3年に及ぶ調査報道により、「熊本産」として販売されるアサリの産地偽装の実態を明らかにした。輸入アサリを日本の干潟に放つ「畜養」と呼ばれる行為を撮影した生々しい動画や証言者の映像は放送メディアならでは表現でインパクトをもたらした。また地方メディアによる地道な取材が、全国で大きな反響をおこし、ローカル放送局における調査報道の重要性を示した。
<プロデューサー・松本年弘様、取材記者・吉田駿平様、吉田翔様より>
愛知県豊橋市の駐在だった吉田駿平記者が3年以上前に漁業関係者から「輸入アサリが熊本産に偽装されている」という情報を得たことが取材のきっかけでした。
吉田記者は2021年夏に営業部に異動しましたが、諦めることなく、休日に関係者と交渉を続け、不正の当事者の取材に成功。その後は後輩の吉田翔記者が引継ぎ、今回の報道が実現しました。
記者個人の熱量が調査報道の最大の原動力だと改めて感じています。優秀賞を頂戴し、誠に光栄です。
優秀賞 デジタル部門:
「キッズライン」問題を明らかにした報道(Business Insider Japan他/中野円佳)
<授賞理由>
信頼できるシッターサービスへのニーズが広がる中で起きた事件について、「シェアリング・エコノミー」の社会的責任、口コミ・レビューのあり方などネットビジネスのかかえる課題について、長期間に渡って多角的に取材し、終始、報道をリードした。デジタルメディアにおける調査報道の可能性を提起した。
<中野円佳様より>
キッズラインの登録ベビーシッターによる性犯罪や杜撰な運営を報じてから2年が経ちます。報道の甲斐あり、今年の6月には改正児童福祉法でシッターのデータベースに事業停止命令等が記載される法的根拠が整いました。一方で、キッズラインでは2021年にも別の不祥事が発生し、現在も内閣府ベビーシッター派遣事業割引券の新規停止処分が継続しています。事件が風化しているタイミングでの受賞により、利用者らに改めて注意喚起ができれば幸いです。
選考委員特別賞
地方メディアによる優れた調査報道である次の2作品に贈る。
中国新疆ウイグル自治区の強制不妊疑惑などを巡る調査報道(西日本新聞)
<授賞理由>
中国当局が「西側のでっち上げ」と否定してきた中国新疆ウイグル自治区の少数民族抑圧を、公式統計を読み解くことで明らかにし、当局が否定できない不都合な事実を掘り起こしたほか、監視の目をかいくぐって施設に迫る現地ルポも報じた。
<西日本新聞中国総局長 坂本信博様より>
中国当局は新疆ウイグル自治区の人権抑圧疑惑を「でっちあげ」と断言してきました。ならば公式統計を読み解くオープンソース調査報道で、当局にとって「不都合な事実」に迫ろうと考えました。作業量は膨大でしたが、不妊処置件数など数字の向こうに一人一人の人間がいることを忘れないようにしました。受賞はとても励みになります。人権問題に国境はありません。言論の自由がない国だけに、海外メディアが報じ続けることで現地の状況が改善されたらと願っています。
「すくえた命~太宰府主婦暴行死事件~」(テレビ西日本)
<授賞理由>
激しい暴力を受けた後に死亡した女性は、脅迫を受けていることを家族が警察に十数回相談していたのに、警察は動かず最悪の結果になったことを掘り起こし、1年かけて検証。粘り強く続報も出し続け、警察の不正義を明らかにした。
<テレビ西日本制作部(元報道部記者) 塩塚陽介様より>
この度は栄誉ある賞をいただき、大変光栄です。地方メディアは警察との関係が密接で、“ネタ元“に気を遣って「公権力の監視」がおざなりになる危険性を孕んでいます。実際この事件も「後追いなのにそのリスクを背負えない」と県警の追及に消極的なメディアが多数ありました。これでは今回我々が問題視した「不作為」の連鎖が起き、メディアの存在意義すら危うくなります。様々な社会問題を抱える現代こそ地方メディアの“記者の力” が問われています。受賞を励みに弊社は今後も取材に邁進します。
【選考について】
授賞作は、期間中に応募・他薦された106件の作品の中から、報道実務家フォーラムに2017年以後参加した報道実務家による投票と、選考委員会による厳正な審査を経て選ばれました。
【選考委員(五十音順、敬称略)】
・ジャーナリスト 江川紹子=委員長
・作家 塩田武士
・ジャーナリスト 長野智子
・東京工業大准教授 西田亮介
・情報公開クリアリングハウス理事長・報道実務家フォーラム理事 三木由希子
【江川紹子(えがわ・しょうこ)・選考委員長コメント】
2回目の今回は、昨年以上にたくさんの応募がありました。地道に事実を重ねた力作の数々から賞を決定するのは容易ではなく、選考委員はじっくり議論を重ねました。その末に、素晴らしい作品を選出し、発表の日を迎えることができたのは、大きな喜びです。
今、世界も日本も、激しく動いています。戦争が起き、強権的な国家が存在感を増し、様々なプロパガンダや情報の操作・隠蔽が行われている中で、日本社会も試練の時を迎えています。
そんな時だからこそ、人々に考えたり判断したりする材料を提供するジャーナリズムが、その役割を果たすことが求められます。調査報道大賞は、埋もれた事実を掘り起こし、あるいは人々の目に触れない事実に光を当てる調査報道に携わるジャーナリストたちを応援する賞であり続けたいと思います。
【澤康臣(さわ・やすおみ)・調査報道大賞実行委員長コメント】
もしこれらの報道がなかったら…。授賞作はもちろん、100を超す候補作それぞれが「報道されなければ明かされなかった」問題や視点を掘り起こしています。国や警察の不正、卑怯な行為、消費者を欺き危険にさらすビジネス、人権と民主主義を踏みにじる圧制者の動きなど、記者が懸命な取材をしてはじめて明らかになるものばかりです。苦労とリスクをいとわず取材する記者たちは、市民が議論し行動する良心を堅く信じ、市民に貢献するファイターだと思います。いま、メディア不信に本気で応えるためには「お行儀良く」「迷惑を掛けない」以上に、アグレッシブな真実暴露があってこそではないでしょうか。今回授賞作はいずれも、記者がときに強く、ときに優しく、闘い抜いた成果です。
【授賞式の開催について】
9月2日(金)18時~20時
(場所 都内を予定)
※授賞式の様子はオンライン配信を行います。
※状況次第では授賞式自体をオンライン開催といたします。
【調査報道大賞の概要】
調査報道大賞は、すぐれた調査報道を顕彰し、その社会的意義を広めるとともに、現場で取り組む取材者を励ますために設立されました。
・主催:特定非営利活動法人報道実務家フォーラム、スローニュース株式会社
・詳細:調査報道大賞ウェブサイト https://www.j-forum.org/award
・対象:
ジャーナリストの調査で分かったことを報道する調査報道であって、次のいずれかにあてはまるもの。
・2019年4月1日以後に発表された
・2019年4月1日以後に成果が顕著になった
(10年前の報道の意義が、2019年4月以後の行政や司法の動きであらためて明らかになったなど。例として、1988年に毎日新聞が報じた薬害エイズ問題が、1996年以後の当局の動きで注目され、再評価されたというようなケース)
【報道実務家フォーラム概要】
団体名:特定非営利活動法人報道実務家フォーラム
事業内容:記者、編集者、ディレクターなど報道実務家が取材技法について学び、会社や媒体の枠を越えてつながるとともに、報道の自由と記者の権利について理解を深める場を提供
理事長:瀬川至朗
事務局長:澤康臣
URL:https://www.j-forum.org/about
【スローニュース会社概要】
社名:スローニュース株式会社(英名:SlowNews, Inc.)
所在地:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-25-16 いちご神宮前ビル2F
事業内容:ジャーナリスト、ジャーナリズムメディアの支援、育成
代表者名:瀬尾 傑
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